大阪高等裁判所 昭和29年(う)1428号 判決
所論は要するに、公職選挙法第十一条が、一般犯罪による処刑者については、刑の執行猶予中の者及び罰金処刑者をいずれも選挙権及び被選挙権の欠格者とせず、禁こ以上の処刑者でもその刑の執行を終るとともにただちに公権を回復させるが、選挙犯罪による処刑者については、同法第二百五十二条第一項において、禁こ以上の処刑者に対し長期の停止期間を定め、刑の執行猶予者についてもその執行猶予期間中公権を停止し、罰金処刑者についてさえもその刑の確定の時から五年間も公権を停止するものと定め、たゞ同条第三項において裁判所が情状により刑の言渡と同時に第一項を適用せず又はその適用を緩和することができるものとしているのは、選挙権、被選挙権に関し一般犯罪による処刑者と選挙犯罪による処刑者との間に社会的身分によつて不条理な差別をしたものであつて、憲法第十四条、第四十四条に違反するから、原判決がこの適用を排除しなかつたのは法令の適用を誤つているというのである。
しかし日本国憲法第十四条第一項が法の下における国民平等の原則を宣明し、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されないと規定したのは、国民が、その基本的な法的関係における主体として平等な待遇を受け、前記の諸関係において非合理的な差別待遇を受けないという原則的な権利ないし地位を規定するものと解するべきであり、また、憲法第四十四条が、両議院の議員及びその選挙人の資格は法律で定めるが、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならないと規定したのも、選挙権及び被選挙権に関し、右と同趣旨の原別を繰り返えし宣明したものであつて、これらの条規は、いずれも、あらゆる場合、あらゆる点において国民が絶対に平等であることを要求するものではなく、法が国民の基本的平等の原則の範囲内において、道徳、正義、合目的性等の要請により適当な具体的規定を設けることを妨げるものではない。
例えば、公務員に対し刑法上その職務の執行を保護するとともに、その汚職を罰し、累犯者又は業務者の刑を加重し、尊属殺又は尊属傷害致死の刑を加重し、親族の刑を免除するが如きは右憲法のいわゆる社会的身分による差別に当らない。(最高裁判所昭和二五年(あ)第二九二号、同年一〇月一一日大法廷判決、最高裁判所判例集第四巻第一〇号第二〇三七頁、多数意見及び補足意見参照)。すなはち、刑罰は、国家社会の秩序を破壊し又は国民の権利を侵害するものに対し、その犯情に応じて科せられるものであるから、国民が刑に処せられることによつて不利益な待遇を受けることは、右の社会的身分による差別ではない。公職選挙法第二百五十二条第一、二項が同項所定の選挙に関する犯罪のため罰金以上の刑に処せられた者に対して、一定の期間公職選挙法の規定する選挙権及び被選挙権を有しない旨規定し、同条第三項において裁判官の裁量により右の規定を適用せず又はその期間を短縮することを得る旨定めたのは、かゝる犯罪者に対する一種の制裁として正義の要求するところと、選挙の公正を保持しようとする合目的性の要請に基き合理的な制限を科したものであつて、その社会的身分によつて差別待遇をしたものとは言えないから、憲法の右条項に違反するものではない。しかも、原判決は、公職選挙法第二百五十二条第一、二項に定めるような選挙権及び被選挙権の制限規定を適用したわけではなく、かゝる制限規定の適用を排除又は緩和の宣告をしていないだけであるから、もし所論のように同条が憲法上無効のものならば、被告人は刑の言渡にかゝわらず依然として選挙権、被選挙権を保有することになるわけであつて、その規定の効力は選挙権、被選挙権の存否の問題として別個に争われるべき問題である。以上いずれの点からみても、原判決が同条第一項の規定の適用を排除しなかつたのを目して法令の適用を誤つたものとは言えない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 山崎薫 判事 西尾貢一 判事 藤井政治)